2014年12月4日木曜日

ビンテージ資料から判明する戦後の米国の衣料または製靴産業の変化

第二次大戦を圧倒的な工業力で制し、その後その力を国内に向けた米国では
益々豊かな生活を送る事が可能になり、中流階級層の生活様式も贅沢に
なってゆきました。そしてその贅沢さは衣料産業にも浸透し国民の
服装にも表れた様です。またその潤沢な国力から派生した新しい生活様式や
習慣も始まり、やがてそれが国内産業全般までも変え、産業形態の変化へ
繋がってゆきます。
今回は米国の戦後の生活様式と衣料産業界の変化、そして近年の米国衣料業界の
復活やクラフトライトの意向をお話し致したいと思っております。

靴や衣料の甲材として使用される革は、ほとんどの場合食用や道具として
利用された動物の二次的産物です。米国は第二次大戦の勝利と国内の安定で、
空前のベビーブームに沸きました。そしてその急成長は膨大な需要を呼び、
多方面で供給が追い付かなくなってゆきました。戦前ブーツや多分野の
衣料に用いられていた、柔らかくて軽い部分と硬くてもしなやかな部分が
取れる丈夫な馬革がほとんど食用として用いられてないという点で品不足に
陥り、代換えが登場し馬革が衰退しました。それが牛革です。牛は
それまでも食用にされていて大量に生産出来た上、皮質も良く革としても
扱い易かった為瞬く間に馬革から取って代わってしまった様です。また他の
理由として生きた馬の皮は傷が出来ると治りずらく、ノミに噛まれた
痕さえも傷として残ってしまい、革にした後でも残ってしまいます。
その点も馬革の衰退に繋がっていったと推測します。

馬革臀部バットオイル

馬革の表面の傷がある部分

その後米国産業と国民は便利さを求め大量生産、大量消費の方針を取り入れて
ゆきます。そして衣料産業界にもその大きな変化が一気に浸透し始めました。
それでも戦後の米国は、その大量生産の中でも高品質を維持する事が可能
でした。科学技術の発展などにより人工素材が戦前よりも優れた品質を
保つ事が可能となり、天然素材の綿や高価な絹がレーヨンやアセテート、
また衣料以外でも利用される素材で多種多様な物に用いる事が出来る塩化ビニール
またはプラスティック、ゴムなどの合成樹脂に移行し、製靴産業にもその進化が
用いられました。レザーソールの代換えとして合成樹脂スポンジ製ソールなどが
廉価版、大型デパートの通信販売商品に頻繁に使用されてゆき、そしてその
代換えの甲材を使用した安価で安定した品質の製品が、米国大衆に浸透した
という事だと思います。

50年代の靴の樹脂製ソール

50年代の靴のスポンジソール
(クレープソール)

50年代の靴の革と化学繊維メッシュ甲部とスポンジソール

50年代中期の米国大型デパートの通信販売用カタログ
(樹脂製ソール仕様を多数掲載)


30年代後期のデパートの通信販売用カタログ
(レザーソール仕様を多数掲載)

(樹脂製ソール仕様も少数記載)

また大量生産方針の米国生産業は、労働条件や環境問題とも密接に関係しました。
平和で安定した米国内で労働者の権利も強くなり、組合の要求などで経営陣との
賃金や労働時間等で相違が広がりました。環境面では大量生産の面で公害問題が
発生して、地域と相違が出て来たり法律を整備されたりし経営者の利益至上主義の
面も重なり、賃金の低い国に設備を移行しやがて米国内から工場が去って
ゆきました。また敗戦国や発展途上国に仕事を振り分け、その国を潤し
米国式民主主義を浸透させるという点でアメリカの思想的な国益も兼ねていた
様です。結果的に製靴産業もかなりその変化の影響を受け、高級靴でないと
米国内での生産は維持出来なくなっていったと推測致します。

しかしながら近年、発展途上国などで生産される米国内で使用される物に、
国民が疑問を持ち始め米国内での物作りが見直されています。懐古主義や
愛国心、途上国の賃金上昇などと相重なって衣料産業界の代表的な品目が
米国内で生産されたり、ビンテージビジネスから派生した啓蒙思想的な考えが、
もう一度伝統のアメリカ製を、といった趣旨で小さい枠で製作されています。
密かに米国職人工芸が陽の目を浴び、それは今やもう大きな動きなのかも
知れません。既にビンテージを踏襲する高品質のアメリカ製の製品が、
有名ブランドによって復活を遂げるいう点も大きいと思います。またそれを
米国に意識させた日本の衣料産業界や消費者も相重なって、益々楽しみな製品が
両国から出現する事は間違いないと思います。

Craft Riteはアメリカがとても良い製品を作り出していた、戦前戦後黄金期の
デザインと品質を求めています。それは革の種類、製法、甲材などある意味
テクノロジーに逆行していて、提供させて頂く側からすると手間が掛かり
割高になる点もあります。しかしながら良い時代に作られていたアメリカの靴は、
半世紀以上経った今もデザイン面そして品質面でも凌駕していると思います。
その様なアメリカの製品を目標に、皆様にご紹介させて頂きたいと思っております。

クラフトライトが使用する樹脂製ソール

40年代の靴の最高級牛カーフ革の経年変化

40年代のワークシューズに用いられた牛革顔料染めの経年変化

50年代中期のハーフブーツに用いられた牛革顔料染めの経年変化

恐らくコンビネーション染めの50年代中期の牛革エンジニアブーツの経年変化